1. 概要
不動産を売却して利益が出た場合は「譲渡所得」として課税されます。不動産の譲渡所得は他の所得と切り離して税額を計算する申告分離課税で、所有期間によって税率が大きく異なります。また、マイホーム(居住用財産)の売却については、売却益が出た場合・損失が出た場合それぞれに手厚い特例が設けられており、CFP試験の最重要テーマの一つです。
2. 不動産譲渡所得の計算
(1)譲渡所得の計算式
📌 譲渡所得の計算式
課税譲渡所得 = 譲渡収入金額 ー(取得費 + 譲渡費用)ー 特別控除額
・譲渡収入金額:売却代金 + 固定資産税・都市計画税の精算金
・取得費:購入代金 + 購入時の諸費用(登録免許税・仲介手数料等)ー 建物の減価償却費相当額
※取得費が不明の場合や実際の取得費が売却代金の5%未満の場合:概算取得費=譲渡収入金額の5%
・譲渡費用:仲介手数料・売買契約書の印紙代・解体費用(土地譲渡目的のもの)等
(2)所有期間による税率区分
不動産の譲渡所得の税率は、譲渡した年の1月1日時点での所有期間(土地・建物ともに)によって区分されます。
| 区分 | 所有期間(1月1日時点) | 所得税率 | 住民税率 | 復興特別所得税 | 合計税率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 短期譲渡所得 | 5年以下 | 30% | 9% | 所得税額×2.1% | 約39.63% |
| 長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% | 所得税額×2.1% | 約20.315% |
⚠️ 所有期間の判定は「譲渡年の1月1日時点」
例:令和7年(2025年)8月に売却した場合、所有期間の判定基準日は令和7年1月1日。購入日が令和2年(2020年)1月2日以降なら「5年以下」の短期扱い(約39.63%)、令和2年1月1日以前なら「5年超」の長期扱い(約20.315%)となる。
※相続で取得した場合、所有期間は被相続人の取得日から引き継ぐ。
(3)損失が出た場合の原則
土地・建物の譲渡によって生じた損失は、原則として他の所得との損益通算は認められません(同一の分離課税グループ内での内部通算のみ可)。ただし、居住用財産の譲渡損失については例外的に損益通算・繰越控除の特例が設けられています(後述)。
3. 居住用財産を売却して利益が出た場合の特例
(1)居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
マイホームを売却して譲渡益が出た場合、課税譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です(租税特別措置法35条)。所有期間に関わらず適用できます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 控除額 | 課税譲渡所得から最大3,000万円控除(譲渡益が3,000万円未満ならその額まで) |
| 所有期間の要件 | なし(短期・長期どちらでも適用可) |
| 適用頻度 | 同一特例を前年・前々年に適用していないこと(実質3年に1度) |
| 売却先 | 配偶者・直系血族・生計を同じくする親族・同族会社等への売却は不可 |
| 居住要件 | 現に居住中のマイホーム、または居住しなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却 |
| 住宅ローン控除との関係 | 同一年および前後2年(計5年間)は住宅ローン控除との併用不可 |
(2)所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
1月1日時点で所有期間が10年を超えるマイホームを売却した場合、譲渡益に対して通常の長期譲渡所得税率(20.315%)より低い軽減税率が適用されます。3,000万円特別控除と重複して適用可能です。
| 課税譲渡所得の区分 | 所得税率 | 住民税率 | 合計税率 |
|---|---|---|---|
| 6,000万円以下の部分 | 10%(+復興特別所得税) | 4% | 約14.21% |
| 6,000万円超の部分 | 15%(+復興特別所得税) | 5% | 約20.315% |
📌 3,000万円控除と軽減税率の重複適用例
【条件】所有期間15年・売却益8,000万円
①3,000万円控除後の課税所得:8,000万円 ー 3,000万円 = 5,000万円
②税額:5,000万円(6,000万円以下部分)× 14.21% ≒ 約711万円
(軽減税率を使わない長期譲渡の場合:5,000万円 × 20.315% ≒ 1,016万円)
この軽減税率特例の主な適用要件は次のとおりです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 所有期間 | 譲渡年の1月1日時点で、家屋・敷地ともに所有期間10年超 |
| 居住期間 | 通算で10年以上居住(連続不要)していること |
| 適用頻度 | 前年・前々年に同特例を受けていないこと |
(3)特定の居住用財産の買換え特例
所有期間・居住期間がともに10年超のマイホームを売却して、新たなマイホームに買い換える場合、売却益への課税を新居の売却時まで繰り延べる特例です(課税がなくなるわけではない点に注意)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用期限 | 令和9年(2027年)12月31日までの譲渡 |
| 旧居宅の要件 | ①所有期間10年超(1月1日時点)②居住期間10年以上③売却価格1億円以下 |
| 新居宅の要件 | ①床面積50㎡以上・敷地500㎡以下②旧居宅の売却年の前年〜翌年中に取得・翌翌年末までに居住③新耐震基準等に適合 |
| 税の効果 | 売却年は課税されず、新居売却時に課税(繰り延べ) |
| 他の特例との関係 | 3,000万円控除・軽減税率との選択適用(重複不可) |
4. 被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除(空き家特例)
一人暮らしだった被相続人が亡くなり空き家となった実家を相続した相続人が、一定期間内に売却した場合に譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例です(措法35条3項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 適用期限 | 平成28年4月1日〜令和9年(2027年)12月31日までの譲渡 |
| 控除額 | 最大3,000万円(相続人が3人以上の場合は最大2,000万円:令和6年1月1日以後の譲渡から) |
| 売却代金上限 | 1億円以下 |
主な適用要件
| 要件区分 | 内容 |
|---|---|
| 家屋の要件 | ①昭和56年5月31日以前に建築(旧耐震基準)②区分所有建物登記がされていないこと |
| 居住状況 | 相続開始直前に被相続人のみが居住していたこと(一人暮らし) |
| 空き家期間 | 相続時から売却時まで、事業・貸付・居住の用に供していないこと |
| 売却期限 | 相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却 |
| 耐震・除却 | 以下のいずれかを満たすこと: (旧)売主が売却前に耐震改修工事または取壊し (令和6年1月1日以降新設)売主または買主が売却後から翌年2月15日までに耐震改修または取壊し |
📌 老人ホーム入所者への拡充(令和元年4月1日〜)
被相続人が相続開始直前に老人ホーム等(有料老人ホーム・認知症対応型グループホーム・サービス付き高齢者向け住宅等)に入所していた場合でも、以下の要件を満たせば空き家特例を適用できます。
①被相続人が要介護認定・要支援認定・障害支援区分の認定を受けていたこと
②老人ホーム等への入所後、家屋を貸付・事業の用に供していないこと
③老人ホーム入所後、その家屋に他の人が居住していないこと
5. 居住用財産を売却して損失が出た場合の特例
マイホームを売却して損失が出た場合にも、給与所得等との損益通算・繰越控除ができる特例が2種類あります。いずれも令和7年(2025年)12月31日までの譲渡が対象(令和8年度改正による延長の動向に注意)。
| 特例名 | 買換えの要否 | 損失計算の上限 | 主な要件 |
|---|---|---|---|
| ①居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算・繰越控除(措法41の5) | 必要(新居の住宅ローン必須) | 制限なし(損失全額) | 所有期間5年超・合計所得3,000万円以下の年のみ繰越控除適用 |
| ②特定居住用財産の譲渡損失の損益通算・繰越控除(措法41の5の2) | 不要(買換えなしでも適用可) | 住宅ローン残高 ー 売却代金(オーバーローン部分が上限) | 所有期間5年超・売却前日にローン残高あり・合計所得3,000万円以下の年のみ繰越控除適用 |
⚠️ 損益通算・繰越控除の特例の注意点
①いずれも確定申告が必要(損失が出ても申告しなければ特例不適用)
②繰越控除は翌年以降3年間(損益通算した年も含め最長4年)
③合計所得が3,000万円超の年は繰越控除不可
④①の「買換え等の場合」の特例は、住宅ローン控除との併用可能(ただし繰越控除期間中は所得税がゼロとなり住宅ローン控除が実際には適用できない年が生じる)
⑤②の「特定居住用財産」の特例では住宅ローン控除との併用不可(居住しないため)
6. 居住用財産の各特例の適用関係まとめ
| 特例名 | 売却益・損 | 所有期間要件 | 控除・効果 | 住宅ローン控除との関係 |
|---|---|---|---|---|
| 3,000万円特別控除 | 益 | なし | 最大3,000万円控除 | 前後2年・計5年併用不可 |
| 10年超軽減税率特例 | 益 | 10年超(所有・居住) | 6,000万円以下14.21% | 原則併用可 |
| 買換え特例(課税繰延) | 益 | 10年超(所有・居住) | 課税繰り延べ | 買換え先で併用可 |
| 買換え等の場合の損失特例 | 損 | 5年超(所有) | 損益通算・3年繰越控除 | 併用可(実質は控除できない年あり) |
| 特定居住用財産の損失特例 | 損 | 5年超(所有) | 損益通算・3年繰越控除(上限あり) | 併用不可 |
| 空き家特例 | 益 | なし(相続後3年以内に売却) | 最大3,000万円控除(相続人3人以上は2,000万円) | 原則併用可 |
7. 取得費の特例・その他の主な特例
(1)相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例
相続または遺贈により取得した財産を、相続税の申告期限の翌日から3年10か月以内に譲渡した場合、その財産に対応する相続税額を取得費に加算できる特例です。これにより課税譲渡所得を圧縮できます。なお、空き家特例との重複適用は不可です。
(2)収用等に伴う譲渡の特例
土地・建物が公共事業のために収用された場合、課税譲渡所得から5,000万円を特別控除できます(他の特例との選択適用)。
8. 試験の重要ポイント
- 不動産譲渡所得は申告分離課税。所有期間の判定は譲渡年の1月1日時点
- 短期(5年以下):合計税率約39.63%、長期(5年超):合計税率約20.315%
- 取得費不明の場合:概算取得費として譲渡収入金額の5%を使用
- 3,000万円控除:所有期間の要件なし。前後2年(計5年)は住宅ローン控除と併用不可。3年に1度のみ適用可
- 10年超軽減税率:6,000万円以下部分が約14.21%。3,000万円控除との重複適用可
- 買換え特例(課税繰延):所有・居住期間ともに10年以上が必要。3,000万円控除・軽減税率との選択適用(重複不可)
- 空き家特例:相続人が3人以上の場合は控除額が2,000万円に縮小(令和6年1月1日以降)。買主による翌年2月15日までの耐震改修・除却も対象(令和6年1月1日以降)。適用期限は令和9年12月31日まで
- 損失が出た場合の損益通算:買換えあり→損失全額を通算可、買換えなし→オーバーローン額が上限
- 損益通算・繰越控除の特例:翌年以降3年間繰越。繰越控除適用年の合計所得が3,000万円超なら不可
- 相続財産の取得費加算特例:相続税申告期限の翌日から3年10か月以内の譲渡が対象。空き家特例との重複不可
- いずれの特例も原則として確定申告が必要(税額がゼロになる場合も申告必須)
参考・出典
- 国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm
- 国税庁「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3305.htm
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁「No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3355.htm
- 国土交通省「空き家の発生を抑制するための特例措置(空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除)」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk2_000030.html
本記事は令和8年度(2026年度)税制改正大綱(令和7年12月19日与党公表・令和7年12月26日閣議決定)および現行法令に基づき作成しています。各特例の適用期限は改正により変更される場合があります。実際の不動産売却に際しては、最新の法令・国税庁の情報を確認するとともに、税理士等の専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

