1. 概要
現物不動産投資とは、アパート・マンション・一戸建て・商業施設などの不動産を直接取得・保有し、賃料収入や売却益を得る投資手法です。不動産は株式などの金融資産と比べて値動きが緩やかで安定した賃料収入が期待できる一方、流動性が低く多額の初期投資が必要という特性があります。CFP試験では不動産所得の計算・減価償却・事業的規模の判定・損益通算が頻出テーマです。
2. 現物不動産投資の特性
(1)メリット
| 特性 | 内容 |
|---|---|
| 安定した賃料収入 | インカムゲイン(家賃収入)が毎月継続的に得られる。株式配当より変動が小さい |
| レバレッジ効果 | 金融機関からの借入(不動産投資ローン)を活用して自己資金の数倍の物件を取得できる |
| インフレヘッジ | 物価上昇局面では不動産価格・賃料も上昇する傾向があり、インフレに強い実物資産 |
| 節税効果 | 減価償却費・利息・管理費等を経費に計上でき、給与所得等との損益通算による節税が期待できる |
| 担保価値 | 不動産自体が担保資産となるため、追加融資を受けやすい |
(2)デメリット・リスク
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 流動性リスク | 売買に時間がかかり、希望する時期・価格で換金できないことがある |
| 空室リスク | テナントが入居しないと賃料収入がゼロになる一方、ローン返済や固定費は継続発生 |
| 価格変動リスク | 景気・金利・地域環境の変化により物件価値が下落するリスク |
| 金利変動リスク | 変動金利のローンを利用している場合、金利上昇で返済額が増加する |
| 修繕・老朽化リスク | 経年劣化による修繕費・大規模修繕が必要になり予期せぬ出費が生じる |
| 管理リスク | 入居者のトラブル、家賃滞納、建物の管理・維持に手間とコストがかかる |
| 災害リスク | 地震・火災・水害等で建物が損壊するリスク(損害保険での対策が必要) |
3. 不動産所得の計算
(1)不動産所得とは
不動産の賃貸から生じる所得を「不動産所得」といいます(所得税法26条)。不動産所得は総合課税の対象で、給与所得等の他の所得と合算して税額を計算します。
📌 不動産所得の計算式
不動産所得 = 総収入金額 ー 必要経費
・総収入金額:家賃・礼金・更新料・共益費・駐車場収入など(敷金・保証金は返還義務がある限り収入に含まない)
・必要経費:管理費・修繕費・租税公課(固定資産税等)・損害保険料・ローン利息(建物部分)・減価償却費・広告料・税理士費用等
(2)主な収入と経費の判定
| 項目 | 収入・経費の扱い | 備考 |
|---|---|---|
| 家賃・礼金・更新料 | 総収入金額に算入 | 礼金・更新料は受け取った年に全額収入算入 |
| 権利金(返還不要) | 総収入金額に算入 | 受け取った年に収入算入 |
| 敷金・保証金(返還要) | 収入に含まない | 将来の返還義務がある限り課税なし |
| 固定資産税・都市計画税 | 必要経費 | 賦課された年分を経費算入 |
| ローン利息(土地部分) | 経費算入可・損益通算は不可 | 土地取得のための負債利子相当額は経費になるが損益通算対象外 |
| ローン利息(建物部分) | 必要経費(損益通算可) | 建物に対応する利息は損益通算の対象 |
| 修繕費 | 原状回復・維持目的:経費 価値増加・耐久性向上目的:資本的支出 | 資本的支出は減価償却を通じて経費化 |
| 減価償却費 | 必要経費 | 建物・建物附属設備が対象。土地は対象外 |
| 損害保険料(火災・地震) | 必要経費 | その年の保険料部分のみ経費算入 |
4. 減価償却
(1)減価償却の基本
建物は時間の経過とともに価値が減少する資産として、取得費用を法定耐用年数にわたって毎年経費化(減価償却)します。土地は減価償却の対象外です。個人の不動産所得における建物の償却方法は定額法のみです(強制)。
📌 定額法による年間減価償却費の計算式
減価償却費(年額)= 取得価額 × 定額法の償却率(= 1 ÷ 耐用年数)
※個人(不動産所得)の減価償却費は強制計上(任意計上は不可)
(2)主な建物の法定耐用年数(事業用・住宅)
| 構造 | 事業用の法定耐用年数 | 償却率(定額法) |
|---|---|---|
| 木造・合成樹脂造 | 22年 | 0.046 |
| 木骨モルタル造 | 20年 | 0.050 |
| 鉄骨造(3mm超4mm以下) | 27年 | 0.038 |
| 鉄骨造(4mm超) | 34年 | 0.030 |
| 鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造・鉄筋コンクリート(RC)造 | 47年 | 0.022 |
⚠️ 事業用と非事業用(居住用)の耐用年数の違い
自宅(居住用)として使用していた不動産を売却した場合、取得費の計算に使う耐用年数は事業用耐用年数の1.5倍(端数切捨て)です。
例:RC造の場合 → 事業用47年 × 1.5 = 70年(非事業用)
非事業用は耐用年数が長いため年間減価償却費が小さくなり、取得費が多く残ります(売却時の税負担が小さくなる政策的配慮)。
(3)中古物件(既存建物)の耐用年数計算(簡便法)
中古物件を取得した場合は、以下の簡便法で残存耐用年数を計算します。
| 区分 | 計算式 |
|---|---|
| 法定耐用年数の全部を経過している場合 | 法定耐用年数 × 20%(端数切捨て、2年未満は2年) |
| 法定耐用年数の一部を経過している場合 | (法定耐用年数 ー 経過年数)+ 経過年数 × 20%(端数切捨て、2年未満は2年) |
📌 中古物件の耐用年数計算例
【例1】築25年の木造物件(法定耐用年数22年)を取得した場合
→ 法定耐用年数22年を全部経過しているため:22年 × 20% = 4.4年 → 4年
→ 年間減価償却費 = 建物取得価額 × 1/4 = 建物価額の25%
【例2】築15年のRC造物件(法定耐用年数47年)を取得した場合
→ 一部経過:(47年 ー 15年)+ 15年 × 20% = 32年 + 3年 = 35年
→ 年間減価償却費 = 建物取得価額 × 1/35 ≒ 建物価額の2.86%
5. 事業的規模の判定(5棟10室基準)
(1)事業的規模の基準
不動産の貸付けが「事業的規模」かどうかは原則として社会通念上「事業」と認められる規模かどうかで実質判断しますが、実務上は以下の5棟10室基準(形式基準)が目安とされます(所得税基本通達26-9)。
| 基準 | 内容 |
|---|---|
| アパート・マンション等 | 独立した室数がおおむね10室以上 |
| 独立家屋(一戸建て) | おおむね5棟以上 |
| 混在する場合の換算 | 独立家屋1棟 = 室数2室相当・駐車場5台 = 室数1室相当として合算して判定 |
(2)事業的規模か否かで異なる取扱い
| 項目 | 事業的規模(5棟10室以上) | 業務的規模(5棟10室未満) |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(最大額) | 65万円(e-Tax申告、複式簿記が条件) | 10万円 |
| 事業専従者給与・控除 | 適用あり(青色:届出額・白色:配偶者86万円等) | 適用なし |
| 資産損失(取壊し・除却) | 損失の全額を必要経費に算入(赤字にできる) | 損失前の不動産所得の額を限度として算入(赤字にできない) |
| 賃料等の回収不能(貸倒損失) | 回収不能となった年分の必要経費に算入 | 収入に計上した年分にさかのぼって所得計算をやり直す |
| 純損失の繰越控除(青色) | 翌年以後3年間繰越可能 | 翌年以後3年間繰越可能(同じ) |
6. 損益通算
(1)損益通算の仕組み
不動産所得が赤字(必要経費が総収入金額を超える場合)となった場合、その赤字を給与所得・事業所得等の他の所得の黒字と相殺することを損益通算といいます。損益通算により総所得金額が減少し、所得税・住民税が軽減されます。
📌 損益通算の計算例
給与所得:700万円
不動産所得:▲100万円(赤字)
→ 損益通算後の総所得金額:700万円 ー 100万円 = 600万円
→ 所得税の税率(仮に33%として):100万円 × 33% = 約33万円の節税
(実際は各種控除も適用されるため正確には異なります)
(2)損益通算の対象外となる不動産所得
以下の不動産所得から生じた損失は、他の所得との損益通算ができません。
| 損益通算できない損失 | 内容 |
|---|---|
| 土地取得のための負債利子に対応する損失 | 不動産所得の赤字のうち、土地等を取得するために要した借入金の利子相当額は損益通算対象外 |
| 生活に通常必要でない資産(別荘等)の貸付損失 | 主として趣味・娯楽・保養・鑑賞目的の不動産からの損失は損益通算対象外 |
7. 事業収支計画の立て方
(1)税前キャッシュフロー(税引前CF)の計算
📌 税前キャッシュフローの計算(会計上の所得とは異なる)
① 満室想定賃料収入
② ー 空室・滞納損失(空室率を考慮)
③ = 実効総収入(EGI)
④ ー 運営費用(管理費・修繕費・固定資産税・保険料等)
⑤ = 純営業収益(NOI:Net Operating Income)
⑥ ー 元利返済額(ローン返済:元金+利息)
⑦ = 税引前キャッシュフロー(BTCF)
(2)会計上の不動産所得と税引前キャッシュフローの違い
会計上の「不動産所得」と実際の「キャッシュフロー」は一致しません。最大の違いは以下の2点です。
| 項目 | 会計上の不動産所得 | キャッシュフロー |
|---|---|---|
| ローン元金返済 | 経費にならない(所得減少に寄与しない) | 実際に支出(CF減少) |
| 減価償却費 | 経費になる(所得を減少させる) | 実際の支出なし(CF減少なし) |
⚠️ 「節税目的」の不動産投資の注意点
減価償却費が大きい物件(耐用年数が短い中古・木造等)は会計上の赤字が出やすく、給与所得との損益通算で節税効果が高い反面、減価償却終了後は所得が増え納税額が増加します。また、売却時は「減価償却費分が取得費から差し引かれた状態」になっているため、売却益(譲渡所得)が大きくなり課税が増大するリスクがあります。
さらに土地部分のローン利子は損益通算の対象外であるため、土地価格の高い物件では期待した節税効果が得られない場合があります。
(3)収益性指標
| 指標 | 計算式 | 意味 |
|---|---|---|
| 表面利回り(グロス利回り) | 年間満室賃料収入 ÷ 物件取得価格 × 100 | 空室・経費を考慮しない単純な利回り |
| 実質利回り(ネット利回り) | (年間満室賃料収入 ー 年間経費)÷ 物件取得価格 × 100 | 経費を差し引いた実態に近い利回り |
| NOI利回り | 純営業収益(NOI) ÷ 物件取得価格 × 100 | 空室・経費を考慮した純収益ベースの利回り |
8. 試験の重要ポイント
- 不動産所得は総合課税(申告分離課税ではない)。所得税率は累進課税
- 敷金・保証金(返還義務あり)は収入に含まない。礼金・更新料(返還不要)は収入に含む
- 土地は減価償却の対象外。建物(建物附属設備含む)のみ減価償却可
- 個人の不動産所得における建物の減価償却方法は定額法のみ(強制)
- 主な建物の法定耐用年数(事業用):木造22年・鉄骨造(4mm超)34年・RC/SRC造47年
- 事業用の耐用年数は非事業用(居住用)の2/3(言い換えると非事業用は1.5倍)
- 中古物件:法定耐用年数全部経過→残存耐用年数 = 法定耐用年数 × 20%(最低2年)
- 事業的規模の基準(5棟10室):アパート等10室以上・一戸建て5棟以上
- 事業的規模の青色申告特別控除は最大65万円(e-Tax申告・複式簿記が条件)、業務的規模は最大10万円
- 不動産所得の赤字は他の所得と損益通算可。ただし「土地取得のための負債利子」に対応する損失は損益通算の対象外
- ローン元金返済は経費にならないが、実際には支出。減価償却費は経費になるが、実際の支出はない(会計上の所得とキャッシュフローの差)
参考・出典
- 国税庁「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm
- 国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1373.htm
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「減価償却資産の耐用年数等に関する省令(別表第一)」https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/03.htm
本記事は現行の税法・通達等に基づき作成しています。税制は毎年改正されることがあります。実際の不動産投資・確定申告については最新の法令・国税庁の情報を確認するとともに、税理士等の専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

