損害保険の基礎・法律

CFP

1. 概要

損害保険は、偶然の事故による損害を実際の損害額の範囲で填補することを目的とした保険です。生命保険が「定額払い」であるのに対し、損害保険は「実損填補」が基本原則となります。CFP試験では、損害保険を規律する法律(保険法・保険業法)の基本知識、告知義務・通知義務などの契約上の義務、保険料の算出の仕組み(純保険料・付加保険料)、超過保険・一部保険・重複保険の概念、そして損害保険契約者保護機構の補償割合が幅広く出題されます。

2. 損害保険を規律する法律

保険法と保険業法の違い

損害保険に関係する主な法律は「保険法」と「保険業法」の2つです。それぞれの役割は明確に分かれています。

法律役割・規制対象
保険法保険契約の当事者間の権利義務関係を定める私法。告知義務・通知義務・解除権の消滅時効など契約の基本的なルールを規定。片面的強行規定(保険契約者に不利な特約は無効)が多い。
保険業法保険会社・保険募集人(代理店)の業務を規制する公法。免許制度・ソルベンシー・マージン比率・募集規制・情報提供義務・意向把握義務などを規定。

令和7年(2025年)保険業法改正のポイント

損害保険金不正請求事案・保険料調整行為事案の再発防止を目的として、令和7年(2025年)に保険業法の一部が改正されました(令和8年6月1日施行予定)。

📌 令和7年保険業法改正の主なポイント(損害保険関連)
①特定大規模乗合損害保険代理店への体制整備義務創設(法令等遵守責任者・統括責任者の設置義務)
②苦情の適切かつ迅速な処理の確保義務
③自動車修理業等を兼業する「兼業特定保険募集人」への規制強化
④企業内代理店に関する規制の見直し

3. 損害保険の基本原則

損害保険特有の4原則

原則内容
実損填補の原則保険金は実際に生じた損害の範囲内でのみ支払われる。損害を超える保険金は受け取れない。
利得禁止の原則保険金の受取によって被保険者が保険事故前より利得することは認められない。超過保険・重複保険の規制の根拠。
被保険利益の原則保険の目的物について経済的利害関係(被保険利益)を持つ者のみが保険契約を締結できる。
代位の原則(保険代位)保険会社が保険金を支払った場合、被保険者が第三者に対して持つ損害賠償請求権を保険会社が取得する(保険法第25条)。被保険者が二重取りすることを防ぐ。

4. 告知義務と通知義務

告知義務(保険法第28条)

損害保険契約の締結に際し、契約者または被保険者は、保険会社から告知を求められた事項(告知事項)について、事実を正確に告げなければなりません(質問応答義務)。故意または重大な過失により告知をしなかった場合や事実と異なる告知をした場合、保険会社は契約を解除できます。

解除権の消滅時期
保険会社が解除原因を知った時から1か月を経過したとき
損害保険契約の締結の時から5年を経過したとき

⚠️ 解除できない場合(保険法第28条2項)
①保険会社が告知義務違反の事実を知っていた、または過失によって知らなかったとき
②保険募集人(媒介者)が告知を妨げた、または不告知・不実告知を勧めたとき

通知義務(危険増加の通知)(保険法第29条)

契約後に危険が増加した場合(例:住宅を事務所に用途変更した、等)、契約者または被保険者は遅滞なく保険会社に通知しなければなりません。通知を怠ると、保険会社は契約を解除できる場合があります。

区分内容タイミング
告知義務契約締結時に保険会社が質問した事項(告知事項)について正確に申告契約締結時
通知義務契約後に危険増加が生じた場合に通知契約締結後

5. 保険価額・保険金額・保険料の関係

基本用語の整理

用語意味
保険価額保険の目的物の客観的な経済的価値(時価額または再調達価額)。保険金支払いの上限となる基準。
保険金額契約で定めた損害填補の上限額。保険金額≦保険価額が原則。
てん補損害額実際に支払われる保険金の算出基礎となる損害額。
免責金額被保険者が自己負担する損害額の下限。免責金額を超える損害部分に対して保険金が支払われる。

超過保険・全部保険・一部保険

区分保険金額と保険価額の関係保険金の支払い
全部保険(適正)保険金額 = 保険価額実際の損害額を全額填補
超過保険保険金額 > 保険価額保険価額を超えた支払いはされない。善意・無重過失の場合、超過部分を遡及して取消・保険料返還可
一部保険保険金額 < 保険価額比例填補方式の場合:保険金額÷保険価額×損害額(保険法第19条)。実損払方式の場合:保険金額を上限に損害額全額

⚠️ 一部保険の比例填補計算例
保険価額2,000万円の建物に保険金額1,000万円で契約(比例払方式)。損害額600万円が発生した場合:
保険金 = 1,000万円 ÷ 2,000万円 × 600万円 = 300万円(損害額の半分しか填補されない)

重複保険

同一の被保険利益に対して複数の損害保険を契約した場合を重複保険といいます。利得禁止の原則から、複数の保険契約から合計して保険価額を超える保険金を受け取ることはできません。各保険会社は保険金額の比率に応じて按分して支払います(保険法第20条)。

6. 損害保険料の仕組み

純保険料と付加保険料

損害保険の保険料(営業保険料)は、「純保険料」と「付加保険料」の2つで構成されています。

構成要素内容
純保険料事故発生時に支払う保険金の原資となる部分。過去の大量データ(事故発生頻度・損害額)に基づき算出される。
付加保険料保険会社の事業運営費用(社費・代理店手数料・利潤など)。各保険会社が独自に算出。

保険料算出の2原則

原則内容
収支相等の原則全契約者から集めた純保険料の総額と、保険会社が支払う保険金の総額が等しくなるよう設定する。
給付・反対給付均等の原則(公平の原則)個々の契約者が支払う保険料は、その契約者のリスクの大きさに比例して設定する。

損害保険料率算出機構と料率の種類

損害保険料率算出機構(損保料率機構)は、「損害保険料率算出団体に関する法律」に基づき設立された団体で、会員の損害保険会社にデータを提供する役割を担っています。

料率の種類対象保険各社の使用義務
参考純率自動車保険・火災保険・傷害保険使用義務なし(参考として利用可)
基準料率(純保険料+付加保険料)自賠責保険・地震保険全社が同一の基準料率を使用(保険料がどの会社でも同額)

📌 保険料率の3原則(損害保険料率算出機構が算出に際して守るべき原則)
合理的:客観性があり精度の高いデータに基づいて算出
妥当:過不足なく、保険料として適切な水準であること
不当に差別的でない:契約者間で不合理な格差を設けないこと

7. 損害保険契約者保護機構

損害保険会社が破綻した場合、損害保険契約者保護機構が資金援助等を行い、契約者を保護する仕組みです。国内で損害保険業の免許を受けたすべての損害保険会社が会員となっています。

保険の種類補償割合
自賠責保険・地震保険100%補償
任意自動車保険・火災保険・個人賠償責任保険・短期傷害保険・海外旅行保険など破綻後3か月以内に発生した事故の保険金:100%補償
それ以外(3か月経過後の保険金・解約返戻金):80%補償
傷害保険・所得補償保険・医療保険(長期性保険)保険金・解約返戻金ともに90%補償(積立型の積立部分は80%)

⚠️ 補償対象となる契約者
補償の対象は、契約者が個人・小規模法人・マンション管理組合である場合に限られます(大企業の法人契約等は原則対象外)。なお、自賠責保険や地震保険はすべての契約が補償対象です。

8. 試験の重要ポイント

  • 損害保険の基本原則:実損填補・利得禁止・被保険利益・代位(保険代位)の4原則
  • 告知義務違反の解除権消滅:保険会社が原因を知った時から1か月、契約締結から5年
  • 通知義務は契約締結後の危険増加時。告知義務は契約締結時の質問応答義務
  • 一部保険(比例払方式)の保険金計算:保険金額 ÷ 保険価額 × てん補損害額
  • 保険料=純保険料(保険金の原資)+付加保険料(事業費等)。純保険料の算出原則:収支相等の原則給付・反対給付均等の原則
  • 基準料率(自賠責・地震保険):各社共通。参考純率(自動車・火災・傷害):使用義務なし
  • 損害保険契約者保護機構:自賠責・地震保険は100%、任意保険は破綻後3か月以内100%・以後80%、長期性保険は90%補償
  • 令和7年保険業法改正:大規模乗合損害保険代理店・兼業特定保険募集人への規制強化(令和8年6月1日施行予定)

参考・出典

  • 保険法(平成20年法律第56号)第28条・第29条・第19条・第20条・第25条 https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/housei/16920080606056.htm
  • 日本損害保険協会「損害保険Q&A 共通 Ⅱ.損害保険料の仕組みについて」https://soudanguide.sonpo.or.jp/basic/2_1.html
  • 日本損害保険協会「損害保険Q&A 共通 Ⅳ.損害保険の契約について」https://soudanguide.sonpo.or.jp/basic/4_1.html
  • 損害保険料率算出機構「保険料率の算出」https://www.giroj.or.jp/ratemaking/
  • 金融庁「令和7年保険業法改正の概要」(2025年)

本記事は令和7年(2025年)時点の法令および制度に基づき作成しています。保険業法・保険法は改正されることがあります。実際の保険契約・手続きについては、最新の法令および金融庁の情報を確認するとともに、専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

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