借家権の種類と契約

CFP

1. 概要

借家権とは、建物を使用・収益することを目的とする賃借権のことです。借地借家法は借家人(賃借人)保護を基本理念としており、普通建物賃貸借では貸主が一方的に契約を終了させることが困難な仕組みになっています。一方、平成12年(2000年)3月1日より施行された定期建物賃貸借(定期借家)は更新がなく期間満了で確定的に終了する制度で、近年利用が増えています。CFP試験では普通借家と定期借家の違い、特に更新・中途解約・賃料増減額請求権の取り扱いの差異が重点的に問われます。

2. 普通建物賃貸借(普通借家)

(1)契約の成立と存続期間

普通建物賃貸借契約は、貸主と借主の合意(諾成契約)により成立します。書面の作成は有効要件ではありませんが、紛争防止のため書面で締結することが一般的です。

項目内容
存続期間期間の定めをしない契約も有効。期間を定める場合は1年以上(1年未満の定めは「期間の定めのない契約」として扱われる)
対抗要件建物の引渡し(借地借家法31条。登記がなくても建物の引渡しを受ければ第三者に対抗可能)
貸主の修繕義務賃貸物件の使用に必要な修繕は原則として貸主の義務。ただし借主の故意・過失による損傷は除く

📌 借家権の対抗要件:建物の「引渡し」
借家権(建物賃借権)は、建物の引渡しを受けることで第三者への対抗要件を満たします(借地借家法31条)。借地権(土地)の対抗要件が「借地上建物の登記」であるのと対比して整理しておきましょう。なお、建物賃借権の登記があれば登記によっても対抗できます。

(2)契約の更新

普通借家における更新には、①合意更新、②更新請求(借主から)、③法定更新(使用継続)の3種類があります。

更新の種類内容
合意更新貸主と借主が合意して契約を更新する。更新後の期間は自由に定められる
更新請求・使用継続(法定更新)借主が期間満了の際に更新を請求した場合、または期間満了後も使用を継続した場合、貸主が正当事由に基づいて遅滞なく異議を述べない限り、従前と同一条件で更新されたものとみなされる(ただし更新後は期間の定めのない契約となる)
貸主の更新拒絶要件更新を拒絶するには正当事由が必要。正当事由の判断要素:①貸主・借主それぞれの建物使用の必要性、②従前の経緯・現況、③立退料の申出など

(3)通知期間

貸主が更新拒絶または条件変更なければ更新しない旨を通知する場合、期間満了の1年前から6か月前までの間に行う必要があります。この期間外に通知した場合は、通知日から6か月経過後に終了します(借地借家法26条)。

(4)賃料増減額請求権

土地・建物の租税その他負担の増減、土地・建物価格の上下、近傍同種建物の賃料との比較などにより賃料が不相当になった場合、貸主・借主のいずれからも将来に向けて賃料の増減を請求できます(借地借家法32条)。

特約の種類有効性
「一定期間賃料を増額しない」旨の特約有効(借地借家法32条1項ただし書)
「賃料を減額しない」旨の特約無効(強行法規に反するため、借主保護の観点から認められない)

(5)解約・明渡し

項目内容
期間の定めがある場合の借主からの中途解約原則として中途解約はできないが、特約があれば可能
期間の定めがない場合の解約申入れ借主からはいつでも解約申入れ可能(解約申入れから3か月後に終了)。貸主からは正当事由がなければ解約申入れできない(申入れから6か月後に終了)
造作買取請求権借主が貸主の同意を得て付加した造作(エアコン・建具等)について、契約終了時に貸主に時価で買い取るよう請求できる(特約で排除可能)

3. 定期建物賃貸借(定期借家)

(1)定期借家の特徴と契約要件

定期建物賃貸借は、契約で定めた期間の満了により更新されることなく確定的に終了する契約です(借地借家法38条)。平成12年(2000年)3月1日に施行されました。貸主にとって建物の回収時期が明確になるメリットがあります。

要件内容
①契約期間上限・下限なし。1年未満でも有効(普通借家と異なり1年未満の定めも有効)
②契約方式公正証書等の書面(または電磁的記録)による必要がある。2022年5月の改正により電磁的記録(電子契約)でも締結可能になった
③事前説明義務貸主は契約締結前に、借主に対して契約書とは別の書面(または電磁的方法)で「更新がなく期間満了で終了する」旨を説明しなければならない。この説明がない場合、定期借家の特約部分(更新なし)は無効となり、普通借家契約として扱われる

⚠️ 事前説明義務違反の効果
事前説明書面の交付・説明を欠いた場合、「契約の更新がない旨の定め」のみが無効となります。つまり、賃料その他の契約条件はそのままで普通借家契約として効力が生じます。定期借家は賃料が割安に設定されることが多いため、貸主にとって不利な結果となりえます。

(2)期間満了の通知

契約期間が1年以上の定期借家の場合、貸主は期間満了の1年前から6か月前までの間に「賃貸借が終了する旨」を借主に通知しなければなりません。この通知を怠った場合、通知日から6か月経過するまでの間は契約の終了を借主に対抗できません。なお、期間が1年未満の場合には終了通知義務はありません。

(3)中途解約

定期借家は原則として中途解約できません。ただし、以下の場合には例外的に中途解約が認められます。

中途解約が認められるケース内容
法定の中途解約権(借主)①居住用建物、②床面積200㎡未満、③転勤・療養・親族介護等のやむを得ない事情により建物を生活の本拠として使用困難、の3要件をすべて満たす場合、解約申入れから1か月経過で解約可能(借地借家法38条7項)。この権利は強行法規で特約で排除できない
解約権留保特約がある場合契約書に中途解約を認める旨の特約(解約権留保特約)がある場合、特約に従い中途解約可能
貸主・借主の合意による解約貸主の同意があれば合意解約も可能(違約金が発生する場合がある)

(4)賃料増減額請求権の特則

普通借家では「賃料を減額しない」旨の特約は無効ですが、定期借家では賃料改定に関する特約がある場合は借地借家法32条(賃料増減額請求権)の規定が適用されず、特約が優先されます(借地借家法38条9項)。

特約の種類普通借家定期借家
「賃料を減額しない」旨の特約無効有効(特約が優先)
「一定期間増額しない」旨の特約有効有効(特約が優先)

(5)再契約

定期借家には更新がありませんが、期間満了後に貸主と借主の双方の合意により新たな定期借家契約(再契約)を締結することは可能です。再契約は新規契約として扱われるため、賃料や期間は前の契約と異なる条件で設定できます。ただし再契約が保証されているわけではなく、貸主が拒否することも可能です。

4. 普通借家と定期借家の比較

比較項目普通建物賃貸借定期建物賃貸借
根拠条文借地借家法26〜29条借地借家法38条
契約方式口頭・書面どちらでも可書面または電磁的記録が必要
存続期間(最低)1年以上(1年未満は期間の定めなしと同様)制限なし(1年未満も有効)
事前説明義務不要必要(別書面での交付・説明)
契約の更新あり(法定更新)なし(再契約は可能)
貸主の更新拒絶正当事由が必要不要(期間満了で終了)
終了通知(1年以上の契約)1年前〜6か月前に通知1年前〜6か月前に通知(怠ると6か月間対抗不可)
中途解約(借主)期間の定めなしの場合、いつでも可(3か月後終了)原則不可(200㎡未満居住用でやむを得ない事情なら1か月前通知で可)
賃料増額なし特約有効有効
賃料減額なし特約無効有効
造作買取請求権あり(特約で排除可)あり(特約で排除可)
対抗要件建物の引渡し建物の引渡し

5. 終身建物賃貸借

高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)に基づく制度で、60歳以上の単身高齢者または高齢者と同居する配偶者を対象に、借主が死亡するまでの間を存続期間とする終身の賃貸借契約です。通常の借地借家法の特則として位置づけられており、借主の死亡で契約が終了します。

項目内容
対象者60歳以上の単身者、または60歳以上の者と同居する配偶者(同居配偶者は60歳未満でも可)
契約終了借主(入居者)の死亡により終了。相続人には引き継がれない
貸主都道府県知事の認可を受けた事業者のみが貸主となれる
契約方式公正証書による締結が必要
中途解約(借主)療養・親族との同居等により建物の使用が困難になった場合、1か月の予告で解約可能

6. 試験の重要ポイント

  • 普通借家の対抗要件は建物の引渡し(登記は不要)
  • 普通借家で1年未満の存続期間を定めた場合は期間の定めのない契約として扱われる
  • 普通借家の貸主から更新拒絶には正当事由が必要。通知期間は期間満了の1年前〜6か月前
  • 普通借家:「賃料増額なし」特約は有効、「賃料減額なし」特約は無効
  • 定期借家の締結には①書面または電磁的記録、②別書面による事前説明の両方が必要
  • 事前説明を欠いた場合、更新なしの定めのみが無効となり普通借家として扱われる
  • 定期借家(1年以上)の終了通知期間:期間満了の1年前〜6か月前。通知を怠ると6か月間終了を対抗できない
  • 定期借家の法定中途解約権:居住用・床面積200㎡未満・やむを得ない事情の3要件を満たす場合のみ、1か月前通知で解約可能(強行法規)
  • 定期借家:賃料改定に関する特約がある場合は賃料増減額請求権(借地借家法32条)の規定が適用されず特約が優先。「賃料減額なし」特約も有効
  • 2022年5月の改正により定期建物賃貸借契約は電磁的記録(電子契約)での締結が可能に
  • 終身建物賃貸借:60歳以上が対象。借主の死亡で終了。貸主は都道府県知事の認可が必要

参考・出典

  • 国土交通省「定期建物賃貸借 Q&A」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000060.html
  • 法務省「借地借家法等の改正(定期借地権・定期建物賃貸借関係)について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00304.html
  • 定期借家推進協議会「定期借家Q&A」https://teishaku.jp/teishakuqa/
  • 国土交通省「高齢者の居住の安定確保に関する法律」https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000003.html

本記事は令和7年(2025年)分の法令および制度に基づき作成しています。借地借家法の解釈・適用については個別事情により異なる場合があります。実際の建物賃貸借契約や賃料増減額に関する交渉・紛争については、弁護士・宅地建物取引士等の専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

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