遺産分割協議と遺言

CFP

概要

相続が開始すると、相続財産は相続人全員の共有状態になります。それを各人の手に確定的に移すのが「遺産分割」です。遺産分割には被相続人の遺言による方法と、相続人全員の話し合いによる方法があります。この記事では遺産分割の方法・手続きの流れ・特別受益と寄与分・遺言の3種類の方式と要件・遺留分まで、CFP試験頻出の論点を体系的に整理します。

遺産分割とは

相続開始と同時に、相続財産は相続人全員の遺産共有状態になります(民法第898条)。遺産分割とは、この共有状態を解消して「誰が・何を・どの割合で」取得するかを確定させる手続きです。遺産分割の効果は相続開始時に遡って効力が生じます(遡及効・民法第909条)。

遺産分割の4種類

種類内容
指定分割被相続人が遺言で分割方法を指定する。最も優先度が高い
協議分割相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で決める。指定分割がない場合または遺言と異なる内容に変更する場合
調停分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所の調停委員会を交えて話し合う
審判分割調停が不成立の場合、家庭裁判所が一切の事情を考慮して分割方法を決定(強制力あり)

遺言がある場合でも、相続人・受遺者全員が同意すれば遺言と異なる内容で遺産分割できます。

遺産分割協議

協議の要件と進め方

遺産分割協議は相続人全員の参加と全員の合意が必要です。一人でも欠けた状態で行われた協議は無効です。特定の財産だけを対象とする一部分割も可能です。

次のような場合は、通常の相続人に加え特別な代理人の参加が必要になります。相続人に認知症・知的障害等がある場合は家庭裁判所が選任した成年後見人が代理参加します。相続人に未成年者がいて、その親権者も相続人である場合は利益相反が生じるため、家庭裁判所が選任した特別代理人が代理参加します(民法第826条)。また、相続人に行方不明者がいる場合は不在者財産管理人の選任が必要です。

遺産分割協議書

協議が成立したら、内容を書面にした「遺産分割協議書」を作成します。法的に義務づけられているわけではありませんが、不動産の相続登記・預貯金の払い出し・相続税申告などの手続きに必要となるため、実務上は必ず作成します。相続人全員が署名し、実印を押印したうえで、各自が印鑑証明書とともに1部ずつ保管します。

遺産分割の方法(現物・換価・代償・共有)

具体的な分割方法には4種類あります。現物分割は財産をそのままの形で各相続人に分ける方法で、最もシンプルです。換価分割は財産を売却して現金化し、その代金を分配する方法です。代償分割は特定の相続人が財産全部を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法で、不動産や事業用財産の承継でよく使われます。共有分割は財産を相続人全員で共有する方法ですが、将来のトラブルのもとになりやすく実務上は避けられる傾向があります。

特別受益

特別受益とは、特定の相続人が被相続人から特別に受けた利益のことです(民法第903条)。具体的には生前贈与(婚姻・養子縁組のため・学費・住宅購入資金等)や遺贈が該当します。特別受益は相続財産に持ち戻し(加算)して相続分を計算し、その相続人の取得分からその特別受益額を控除します。ただし、被相続人が遺言で「持ち戻し免除の意思表示」をした場合は加算不要です。

婚姻期間20年以上の夫婦間での居住用不動産の遺贈・贈与については、令和元年民法改正により持ち戻し免除の意思表示が推定される規定が設けられました(民法第903条4項)。配偶者への自宅の贈与等が特別受益として差し引かれないことで、配偶者が生活資金も確保しやすくなります。

寄与分

寄与分とは、相続人が被相続人の財産の維持・増加に特別に貢献した場合に、その貢献分を相続分に上乗せできる制度です(民法第904条の2)。療養看護・事業の手伝い・財産管理などが該当します。寄与分は相続人間の協議で決め、まとまらない場合は家庭裁判所に審判を申立てます。

また、令和元年改正で相続人以外の親族(例:長男の妻)が被相続人の療養看護を行った場合に「特別寄与料」を相続人に請求できる制度も創設されました(民法第1050条)。

10年経過後の遺産分割(令和5年民法改正)

【令和5年(2023年)4月1日施行】相続開始から10年が経過した後は、原則として特別受益・寄与分の主張ができなくなり、法定相続分または指定相続分で遺産分割することになりました(民法第904条の3)。令和5年4月1日より前に開始した相続も対象ですが、施行日から5年間(令和10年3月31日まで)の経過措置があります。なお、10年経過後であっても相続人全員が同意すれば具体的相続分での分割は可能です。

遺言

遺言の効力と優先順位

遺言(いごん)は遺言者の死亡により効力が生じます。法定相続分よりも遺言が優先されますが、遺留分を侵害することはできません。複数の遺言書がある場合は、内容が抵触する部分について後の日付の遺言が優先します(民法第1023条)。

遺言能力は満15歳以上から認められます。遺言は単独行為(相手方の承諾不要)であり、いつでも全部または一部を撤回できます。

3種類の遺言方式の比較

比較項目自筆証書遺言公正証書遺言秘密証書遺言
作成方法全文・日付・氏名を自書、押印(財産目録のみPC可)公証人が筆記。遺言者が口述し公証人が記載遺言者が署名押印し封印。内容の自書不要
証人不要2名以上必要2名以上必要
公証人不要(法務局保管制度を利用する場合を除く)必要必要(封紙への記載のみ)
検認必要(法務局保管制度を利用した場合は不要)不要必要
原本保管自己保管(法務局保管制度あり)公証役場が保管自己保管
無効リスク形式不備で無効になりやすい最も低い内容不備で無効になる可能性あり
内容の秘密性自己保管なら秘密可公証人・証人に知られる公証人・証人にも内容は非公開

自筆証書遺言の要件

全文・日付・氏名を自書(手書き)し、押印することが必要です(民法第968条)。平成31年(2019年)1月以降は財産目録のみパソコン作成・銀行通帳コピー等の添付が認められましたが、その場合は財産目録の各ページに署名・押印が必要です。日付は年月日を具体的に記載しなければなりません(「○月吉日」等は無効)。

令和2年(2020年)7月から、法務局(遺言書保管所)で自筆証書遺言を保管する制度が始まりました。この制度を利用すると、紛失・改ざんのリスクが低減し、家庭裁判所での検認が不要になります。

公正証書遺言の要件

遺言者が公証役場で証人2名以上の立ち会いのもと、遺言の趣旨を公証人に口述し、公証人がこれを筆記して読み聞かせ・閲覧させ、遺言者と証人が署名押印します(民法第969条)。原本は公証役場で保管されます(原則20年間)。家庭裁判所での検認は不要で、死後すぐに遺言を執行できます。

証人になれない人(欠格者)として、推定相続人・受遺者・それらの配偶者や直系血族、公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・雇い人等が定められています(民法第974条)。証人の選定を誤ると遺言が無効になります。

遺言の執行

遺言の内容を実現するための手続きを遺言執行といいます。遺言執行者が指定されている場合はその者が、指定がない場合は相続人全員が共同して執行します。遺言執行者は、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が選任することもできます。遺言執行者がいる場合、相続人は遺言執行を妨げる行為ができません(民法第1013条)。

遺留分

遺留分とは

遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)が遺言や生前贈与にかかわらず最低限取得できることが保障されている割合です(民法第1042条)。遺言によっても遺留分を侵害することはできません。遺留分権利者は兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)です。

遺留分の割合

遺留分の割合は相続財産全体に対する割合です。直系尊属のみが相続人の場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合(配偶者・子・直系尊属が含まれる場合)は2分の1です。各人の具体的な遺留分は「遺留分の全体割合×その相続人の法定相続分」で計算します。

例えば、相続人が配偶者と子2人の場合、遺留分全体は2分の1です。配偶者の遺留分は2分の1×2分の1=4分の1、子各々の遺留分は2分の1×4分の1=8分の1となります。

遺留分侵害額請求権

遺留分が侵害された場合、遺留分権利者は侵害した受遺者・受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます(民法第1046条)。令和元年(2019年)の民法改正前は現物返還が原則でしたが、改正後は金銭債権に一本化されました。

請求の時効は「相続の開始および遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年」です。また相続開始時から10年が経過すると、知らなくても請求できなくなる除斥期間があります(民法第1048条)。

遺留分の算定基礎となる生前贈与の範囲は、相続人への贈与は相続開始前10年間、相続人以外への贈与は相続開始前1年間に行われたものです(民法第1044条)。ただし当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って行った贈与はこの制限がありません。

試験の重要ポイント

遺産分割協議の頻出論点

  • 遺産分割協議は相続人全員の参加・全員の合意が必要。一人でも欠けると無効
  • 認知症の相続人 → 成年後見人が代理。未成年者の親も相続人 → 利益相反 → 特別代理人が必要
  • 遺産分割協議書:全員の署名・実印・印鑑証明書が必要
  • 令和5年改正:相続開始から10年経過後は特別受益・寄与分の主張が原則不可(法定/指定相続分で分割)
  • 特別受益の持ち戻し免除:婚姻20年以上の配偶者への居住用不動産の贈与・遺贈は免除推定
  • 遺産分割の効果は相続開始時に遡及する

遺言の頻出論点

  • 遺言能力:満15歳以上。意思能力があれば認知症でも有効な遺言は可能
  • 自筆証書遺言の要件:全文・日付(年月日)・氏名を自書+押印。財産目録のみPC可
  • 公正証書遺言の証人:2名以上。推定相続人・受遺者・その配偶者や直系血族等は証人になれない
  • 検認が不要:公正証書遺言、法務局保管制度を利用した自筆証書遺言
  • 複数の遺言:抵触する部分は後の遺言が優先。先の遺言を撤回したとみなす
  • 配偶者居住権を遺言で設定する場合は「遺贈する」の文言が必要(「相続させる」は不可)

遺留分の頻出論点

  • 遺留分権利者:配偶者・子(代襲含む)・直系尊属。兄弟姉妹には遺留分なし
  • 遺留分の割合:直系尊属のみの場合は3分の1、それ以外は2分の1(相続財産全体に対する割合)
  • 遺留分侵害額請求権:令和元年改正で金銭債権に一本化。現物返還は不可
  • 時効:知った時から1年(除斥期間は相続開始から10年)
  • 生前贈与の算定範囲:相続人への贈与は10年間、第三者への贈与は1年間

参考・出典

本記事は令和7年(2025年)分の法令および制度に基づき作成しています。税制・法令は毎年改正されることがあります。実際の申告・手続きについては、最新の情報を確認するとともに、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

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