概要
本記事では、公的年金の応用部分として、在職老齢年金・繰上げ受給と繰下げ受給・離婚時の年金分割・併給調整・ねんきん定期便の見方を解説します。当記事は記事「公的年金(1)全体像と基本部分」で扱った基本部分の上に立つ知識で、CFP試験では計算問題や判断問題として出題されることが多いテーマです。
特に繰上げ・繰下げの減額・増額率と在職老齢年金の支給停止のしくみは数値を正確に覚えることが重要です。離婚時の年金分割は「合意分割」と「3号分割」の違いを整理しておきましょう。
在職老齢年金
在職老齢年金のしくみ
在職老齢年金とは、厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受給する場合に、賃金(総報酬月額相当額)と年金額の合計が一定の基準額を超えると、年金の一部または全部が支給停止される制度です。
令和4年(2022年)4月の改正により、60歳台前半(60〜64歳)と65歳以降で別々だった支給停止基準額が一本化されました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象者 | 厚生年金保険に加入しながら老齢厚生年金を受給している人(年齢不問) |
| 支給停止の基準額 | 総報酬月額相当額+年金月額が50万円(令和7年度)を超える場合 |
| 支給停止額の計算 | (総報酬月額相当額+年金月額-50万円)÷2 が月額で停止される |
| 老齢基礎年金への影響 | 在職老齢年金による支給停止の対象は老齢厚生年金のみ。老齢基礎年金は停止されない |
在職老齢年金の支給停止額の計算に用いる「総報酬月額相当額」は、その月の標準報酬月額に、直近1年間の標準賞与額の12分の1を加えた額です。賞与も考慮される点を押さえておきましょう。
在職定時改定
令和4年(2022年)4月から、65歳以上の在職中の老齢厚生年金受給者について、毎年10月に年金額が改定される「在職定時改定」が導入されました。それまでは退職するまで年金額が改定されなかったため、在職中にも年金額が増加するようになりました。
繰上げ受給と繰下げ受給
繰上げ受給
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、原則65歳からの受給を前倒しして60歳から64歳の間に受給開始することができます。これを「繰上げ受給」といいます。
- 減額率:1か月繰り上げるごとに0.4%減額(昭和37年4月2日以降生まれの場合)。最大60か月繰り上げると24%の減額
- 減額は生涯続く:繰上げによる減額は65歳以降も一生涯適用され、取り消しはできない
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰り上げが必要:一方だけを繰り上げることはできない
- 障害年金との関係:繰上げ受給後は、原則として障害基礎年金を請求できなくなる
繰下げ受給
老齢基礎年金・老齢厚生年金は、65歳からの受給を最大75歳まで遅らせることができます。これを「繰下げ受給」といいます。
- 増額率:1か月繰り下げるごとに0.7%増額。最大120か月(10年)繰り下げると84%の増額
- 増額は生涯続く:繰下げによる増額は生涯適用される
- 老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰り下げ可能:一方のみの繰下げも認められる
- 加給年金との関係:老齢厚生年金を繰り下げている間は加給年金も支給されない
| 繰上げ受給 | 繰下げ受給 | |
|---|---|---|
| 受給開始可能年齢 | 60歳〜64歳 | 66歳〜75歳 |
| 変動率(1か月あたり) | -0.4% | +0.7% |
| 最大変動幅 | 最大-24%(60か月) | 最大+84%(120か月) |
| 老齢基礎・老齢厚生の関係 | 同時に繰上げ必要 | 別々に繰下げ可能 |
繰上げ・繰下げの変動率は試験で頻出です。繰上げは「0.4%×繰上げ月数」、繰下げは「0.7%×繰下げ月数」で計算します。昭和37年4月1日以前生まれは繰上げ減額率が0.5%(旧率)であることも確認しておきましょう。
離婚時の年金分割
合意分割
合意分割は、離婚した当事者間の合意(または裁判手続き)により、婚姻期間中の厚生年金の標準報酬記録を分割する制度です。
- 対象:平成19年(2007年)4月1日以降に離婚した場合
- 分割割合:当事者間の合意または裁判で決定。分割を受ける側の割合は最大2分の1
- 請求期限:原則として離婚成立日の翌日から2年以内
- 国民年金(老齢基礎年金)は分割対象外:あくまで厚生年金の標準報酬記録のみが対象
3号分割
3号分割は、第3号被保険者(専業主婦・主夫等)が相手方の合意なしに、婚姻期間中の第2号被保険者の標準報酬記録を2分の1に分割できる制度です。
- 対象期間:平成20年(2008年)4月1日以降の第3号被保険者期間のみ
- 分割割合:一律2分の1(相手方の合意不要)
- 請求期限:原則として離婚成立日の翌日から2年以内
| 合意分割 | 3号分割 | |
|---|---|---|
| 対象期間 | 婚姻期間全体(厚生年金加入期間) | 平成20年4月1日以降の第3号被保険者期間 |
| 相手方の合意 | 必要(合意または裁判) | 不要 |
| 分割割合 | 最大2分の1(合意で決定) | 一律2分の1 |
| 請求期限 | 離婚後2年以内 | 離婚後2年以内 |
併給調整および厚生年金基金との関係
公的年金の併給調整
公的年金は原則として1人1年金です。老齢・障害・遺族の各年金が同時に受給権を持つ場合は、いずれか1つを選択します。ただし、65歳以降は一定の組み合わせで併給が認められます。
| 組み合わせ | 65歳以降の取り扱い |
|---|---|
| 老齢基礎年金+老齢厚生年金 | 併給可能(原則的な組み合わせ) |
| 老齢基礎年金+遺族厚生年金 | 併給可能 |
| 障害基礎年金+老齢厚生年金 | 併給可能 |
| 障害基礎年金+遺族厚生年金 | どちらか一方を選択 |
| 老齢厚生年金+遺族厚生年金 | 老齢厚生年金が優先。遺族厚生年金が老齢厚生年金を上回る場合はその差額を支給 |
厚生年金基金との関係
厚生年金基金は、厚生年金保険の老齢厚生年金(報酬比例部分の一部)を代行しつつ、企業独自の上乗せ給付を行う制度です。平成26年(2014年)の法改正により新設が禁止され、現在は存続基金のみ残っています。基金の解散・代行返上が進んでいるため、試験では制度の概要と代行部分の仕組みを押さえておく程度で対応できます。
ねんきん定期便の見方
ねんきん定期便の概要
ねんきん定期便は、日本年金機構が毎年誕生月に被保険者へ送付する年金情報の通知書です。保険料の納付状況・見込みの年金額などが記載されており、受給前の年金確認に役立ちます。
| 年齢 | 送付形式 | 主な記載内容 |
|---|---|---|
| 35歳・45歳(節目年齢) | 封書(全期間の記録) | これまでの全加入記録・加入期間・保険料納付額の累計・年金見込み額 |
| 50歳以上(59歳を除く) | はがき | 直近の加入記録・年金見込み額(現在の加入条件が60歳まで続いた場合の試算) |
| 59歳 | 封書 | 全期間の加入記録・年金見込み額の詳細 |
| 50歳未満(35歳・45歳を除く) | はがき | 直近の加入記録・これまでの保険料納付額 |
ねんきん定期便で確認すべき主なポイントは、①加入記録に漏れ・誤りがないか、②未納期間がないか、③年金見込み額の水準が適切かどうか、の3点です。記録に誤りがある場合は「ねんきんネット」または年金事務所に申し出ることができます。
50歳以上のねんきん定期便に記載される「年金見込み額」は、現在の加入条件が60歳まで継続した場合の試算値です。転職・退職・収入変化があると実際の受給額は変わるため、あくまで目安として活用します。
試験の重要ポイント
在職老齢年金の支給停止計算
在職老齢年金の計算手順は①総報酬月額相当額と年金月額を合算し、②基準額(50万円)を超えた場合に超過分の2分の1が支給停止されます。基礎年金は対象外という点が頻出です。また令和4年改正で60歳台前半と65歳以降の基準が統一されたことも確認しておきましょう。
繰上げ・繰下げの損益分岐点
繰上げ・繰下げをどの時点で損益分岐するかを問う問題が出ることがあります。基本的な考え方として、繰上げ受給は長生きするほど損、繰下げ受給は長生きするほど得になります。繰下げ受給の損益分岐点は概ね81歳台(12年程度で元が取れる)とされています。
離婚分割・併給調整の頻出ポイント
- 3号分割の対象は平成20年4月以降の期間のみ(それ以前は合意分割が必要)
- 年金分割の請求期限は離婚後2年以内
- 65歳以降は「老齢基礎年金+遺族厚生年金」の併給が可能
- 老齢厚生年金と遺族厚生年金が重なる場合は老齢厚生年金が優先され、差額のみ遺族厚生年金として支給
参考・出典
- 日本FP協会「CFP資格審査試験 出題範囲」
- 日本年金機構「老齢年金の繰上げ受給」
- 日本年金機構「老齢年金の繰下げ受給」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
- 日本年金機構「離婚時の年金分割」
- 日本年金機構「ねんきん定期便について」
本記事は令和7年(2025年)分の法令および制度に基づき作成しています。税制・法令は毎年改正されることがあります。実際の申告・手続きについては、最新の情報を確認するとともに、税理士・弁護士等の専門家にご相談ください。本記事はCFP試験対策および一般的な学習目的で作成されたものです。

